MAGAZINEプチさんマガ

民藝とは何か?
「民藝さんぽ」で丸一日民藝に触れて気づいたこと。

2021.09.13

「民藝」がずっと気になっていた私。
民藝を生活に取り入れている人の暮らしが、なんだかとても豊かに思えて……。

でも、そもそも「民藝」ってなんだろう?
「美しい?」それだけじゃないし、「昔のもの?」それもなんか違う。

そんなふうに思っていたころ、「民藝さんぽ」なるイベントが西条市で開催されるという情報をキャッチ!なんだか民藝初心者の私にぴったりかも?
ということで、張り切ってイベントに参加してきました。

今回はその「民藝さんぽ」の様子をレポートします。

「民藝さんぽ」ってどんなイベント?

民藝さんぽは、実は今回が3度目の開催。初回は2020年11月3日に開催され、第3弾となる今回は「土地の恵をいただく」をテーマに、以下4つのプログラムが用意されていました。

1水の都の建築探訪ツアー

2土地の恵のエピソードトーク

3企画展・見学会

4土地の恵でランチ&カフェ

会場となるのは、西條藩陣屋跡(現・西条高校)エリア。
このエリアには、民藝館、博物館、記念館、教会などがたたずんでいて、「民藝さんぽ」は、それらを巻き込んだこの日だけの特別イベントなのです。

イベントエリアに到着後、まずは、メインどころの愛媛民藝館に向かいました。民藝館で出迎えてくださったのは、館長の真鍋和年さん。

早速、民藝さんぽのこと、民藝館の歴史や「民藝とは?」を丁寧に教えてくださいました。

「民藝とは『民衆的工芸』の略語で、大正時代の終わりに思想家の柳宗悦らによって作られた造語です。一言で民藝とは、『その土地の素材を使った生活の用具』。職人たちが長い時間かけてつくり、どんどん洗練されてきたもの。柳さんはそれを「美しい」と言った。民藝品に使ってこその「用の美」を見いだしたのです」

使ってこその「用の美」……。いきなり核心に触れていただき、「なるほど〜」と深くうなずきました。

“民藝品を普段使いに取り入れて豊かな生活をしませんか”と提案した柳氏らの活動は「民藝運動」と呼ばれ、大正から昭和に高まったそう。この運動はやがて、昭和9年の日本民藝協会発足、昭和11年の東京・駒場の日本民藝館の設立へと結実します。

「当館ができたのは昭和42年です。当時、日本民藝協会長だった大原總一郎さんは、倉敷レイヨン(現クラレ)社長でした。西条にはクラレの工場があって、当時4,000人の従業員がいました。四国における民藝活動の拠点にしようという大原さんの呼びかけに、地元の有志や企業が応え、ここ西条に四国初の民藝館ができたんです」

設立当初の名称は「東豫民藝館」だったそうですが、昭和52年に「愛媛民藝館」と改称。今なお、日本民藝協会加盟の四国唯一の民藝館として活動しています。

▲当時つくられた日本民藝地図には「東豫民藝館」という名前が

愛媛民藝館は、平成25年には公益財団法人となり、昨年度からは西条郷土博物館と五百亀記念館も合わせた3館管理をすることで、西條藩陣屋跡周辺が文化や観光の拠点となることを目指した取り組みを進めているとのこと。

「この西條藩陣屋跡周辺は、観光スポットになりうるのに、知る人ぞ知る状態だったんです。愛媛民藝館にしても、愛媛民藝協会の会員数は200人程度。せっかく大原さんが民藝館を作ってくれたのに、市民レベルでさえ知っている人は限定的でした。そこで、このエリアの情報発信事業としてはじめたのが『民藝さんぽ』です。西条市、株式会社ソラヤマいしづち、公益社団法人の3社連携で開催していて、今年で2年目、開催数としては3回目です」

若い世代やこれまで「民藝」に関心を持っていなかった人にも知ってもらいたいと、昨年には愛媛民藝館のSNSを開設。すると、愛媛民藝館の来館者数は、民藝さんぽ開催以降の7カ月で年間の過去最多数だった4000人を超えるなど、手応えを感じていると言う真鍋館長。インタビューの最後には、民藝への想いをこのように語ってくれました。

「工業製品が発達した今、それでも、手作り品には温かみがあります。そのことをより多くの人に知ってもらいたい。何より、いくつかを暮らしに取り入れて、実際に使っていただきたい。そして、子々孫々まで伝えていただきたいですね。いろいろお話しましたが、柳さんは直感をとても大事にする方です。小賢しい先入観は不要。今日は、自分で見て触って感じてくださいね」

真鍋館長のありがたいお話を胸に、さあ、いよいよイベントを巡ります!

愛媛の民藝を「建築」の視点から楽しむ

午前中に参加したのは、「水の都の建築探訪ツアー」。「愛媛民藝館」をはじめとする、建築家・浦辺鎮太郎氏が手掛けたモダニズム建築を、特別ゲストの解説を交えてめぐるガイドツアーです。浦辺氏は、倉敷国際ホテルや倉敷アイビースクエアでも知られる、倉敷レイヨン(現株式会社クラレ)で大原總一郎氏を支えた建築家です。

西条高校の正門を担う西條藩陣屋跡「大手門」からお堀をぐるっと回り、最初の目的地「西条栄光教会」へ向かいます。

【西条栄光教会(1951年竣工)】

西条栄光教会は、写真手前に見える「礼拝堂」を起点に、南側に「牧師館」、西側に「幼稚園」(写真右奥)がL字型でつながり、3棟で西条栄光教会群を構成しています。

・「礼拝堂」

礼拝堂は、一見洋風なのに、屋根は切り妻瓦葺きの和の趣もある、クラシックとモダンを兼ね備えた建物です。礼拝堂前の敷石は、近くの川で採取した「伊予の青石」なのだそう。

礼拝堂の中に一歩足を踏み入れると、そこには気品漂う真っ白な空間が。

ここでは、西条栄光協会牧師・西条栄光幼稚園長の古谷健司さんが建築のこだわりを教えてくださいました。

「礼拝堂の注目ポイントは三つです。一つ目は、十字架の表現。さまざまな十字架をさりげなく表現することで、祈りの場を演出しています。二つ目は、真っ白な空間を支える六角柱。三つ目は、木レンガの床です。見た目もですが足元に感じる感触にも、優しさがあると思います」

こちらが木レンガの床です。少し弾力性があって、どこか温かみも感じられました。

表の敷石もそうでしたが、立派で華美な建材を使うのではなく、創意工夫で豊かな空間が作り上げられていることに、浦辺氏の細やかな心遣いを感じました。

続いて、通常は立ち入り禁止の特別ルートを通って牧師館へ。

・「牧師館」

牧師館は、木造2階建て、白いしっくい壁に木部を現す民藝調のデザインです。「西条栄光教会保全再生ワーキンググループ」のプロジェクト(2015〜2018年)で改修され、2021年2月には「日本の伝統建築とモダニズム建築が融合した近代建築物」として、礼拝堂、牧師館、幼稚園舎ともに、愛媛県庁本館と肩を並べて国の登録有形文化財になりました。

内部は、和と洋を融合させた、民藝的で温かい雰囲気。ここでは、ワーキンググループのリーダーで一級建築士の長井信彦さんが、建築当時や修復裏話などをしてくださいました。

「2015年の調査時、3つの建物のうち牧師館が一番危険でした。基礎が折れていたので、基礎自体をやりかえる必要があり、庭を使って曳家工事(建築物をそのままの状態で移動する建築工法)をしました。大事なことは保存することなので、当時の姿に戻すよりも、今後も使い続ける機能性を優先して改修しました」

牧師館は、歴代の牧師家族が住み継いできたので、時代や家族構成によって少しずつ手を加えられています。そんな変化部分を生かして修復しつつ、キッチンや水回りなどは、今の時代に使いやすい形に更新されていました。

▲背比べの跡を残す柱も

・「幼稚園」

続いて、幼稚園園舎へ。近代的スタイルの木造建築で、こちらも2020年に改修を終えたばかりです。改修は、牧師館同様、時間を経て改変されてきた部分を受け入れ、今後も使い続けることをテーマに、幼稚園を認定こども園に移行することに合わせて行われたそう。

園舎の屋外廊下には、円柱と長方形の開口が並びます。土曜日だったので、教室からは子どもたちの声も聞こえてきました。

続いては民藝館へ!

【愛媛民藝館(1967年竣工)】

西条郷土博物館と一続きの建物になっています。向かって右側が愛媛民藝館です。

黒瓦のボーダーが特徴的な土蔵造りの2階建て。築50年とは思えないモダンさが漂います。

よく見ると、白壁に化粧貼りされている黒瓦は、めずらしい真四角。

ここの玄関アプローチに敷かれていたのも「伊予の青石」。地域の素材を積極的に取り入れた浦辺氏の工夫を随所に見ることができました。

2階建ての館内には、砥部焼や伊予絣といった県内産品に加え、全国各地の民藝品がズラリと並びます。1階は常設展示とショップコーナー、2階は企画展示スペース。

順路はなく、自由にゆっくり見学できます。

設立当初に収集された民藝品を中心に、主に江戸時代から現代までの陶磁器、木漆工、竹細工、ガラス、染物、織物など、なんと約2,000点もの品を所蔵しているそう。

良質なものを取りそろえ、見て触れて、暮らしに取り入れたくなる展示がされています。

【西条郷土博物館(1967年竣工)】

最後は、民藝館の隣の「西条郷土博物館」へ。

まるでタイムスリップしたかのような館内には、西條藩主・松平氏ゆかりの品々などが所狭しと展示され、歴史を積み重ねてきたこの土地のドラマを感じることができます。学術的価値が高いものが多いそう。

随所に施された“梅のマーク”。何かコンセプトがあるのでは? と推測され、諸説あるそうですが、資料がないため浦辺氏が込めた本当の意味はわからないままだとか。

浦辺建築の探訪はここまで。その土地のものを使った無駄のない建物と、毎日使い続けることで美しさに磨きがかかる建物。浦辺建築に民藝の精神と重なる「用の美」を感じられた「水の都の建築探訪ツアー」でした。

▲牧師館でお弁当を食べる参加者

ちなみに、このツアーは地元の人気店「HAZUKI」さんのお弁当付き。参加者の皆さんは、地域の食材を丁寧に調理した特製お弁当を、名建築でくつろぎながら召し上がっていました。

さらに「食」の視点から民藝を味わう

午後から参加したのは、民藝館2階で開催された「土地の恵のエピソードトーク」。西条でメンマやフルーツを使った商品販売を行う生産者二人をゲストに迎え、その背景を語っていただくトークイベントです。

メンマの回のトークゲストは、 Hinel代表の山中裕加さん。「ちょっと新しいメンマ」の開発を通して、西条市内の放置竹林問題を楽しく、そしておいしく解決することを目指す「メンマチョ」プロジェクトを推進しています。

そのメンマを味わう試食タイムも。西条高校商業科の生徒さんによる配膳で、爽やかな竹茶とともに参加者に振る舞われました。民藝の器に盛りつけるなど、ディテールまで「土地の恵みをいただく」工夫がされていました。

民藝の器といえば、企画展&見学会の一つとして、愛媛民藝館の2階では「沖縄の手仕事展」が開催され、1階では沖縄やちむんの展示即売会もありました。

民藝館に並ぶ数々の器の中でも、ひときわ目立つ「やちむん」。その存在感に見入っていると、「ここに並べているより、食卓に1,2点置くと、精彩が出ていいなと思えますよ」と真鍋館長。

会場外では、西条野菜のスパイスカレーや自家製シロップのかき氷などが味わえる「土地の恵でランチ&カフェ」も。

暑い日でしたので、ララジュースさんのかき氷が大人気でした。

もの選びも暮らしも豊かにしてくれる「民藝」

いかがでしたか? 民藝の魅力を、いろいろな角度から感じることができた「民藝さんぽ」。内容が本当に盛りだくさんで、私自身すべてを見て回ることはできませんでした。今回ご紹介したのも、その一部です。民藝さんぽは今後も開催予定とのことですし、民藝館自体はいつでも見学可能ですから、民藝に興味がある人もそうでない人も、ぜひ遊びに行ってみてくださいね。

私も、近いうちにまた、愛媛民藝館を訪れるつもりです。

▲器やガラスなどの民藝品を扱うショップコーナー

というのも、イベント冒頭、真鍋館長に「いくつかを暮らしに取り入れて、実際に使っていただきたい」とお話を伺ったときから、「民藝品を買って帰る!」と決めていた私。

取材後、ショップをじっくりゆっくり見たものの、「この器が欲しいけどわが家には大きすぎかも」「デザインは好きだけど、口当たりがもっと薄いコップが私には心地よい」なんて、見れば見るほど、決められず……。すると今度は、館長のこの言葉が頭に浮かびました。

「柳さんは直感をとても大事にする方です。小賢しい先入観は不要。今日は自分で見て触って感じてくださいね」

そうか、もしかして今はまだ買うときじゃないのかも。

民藝品に「またおいで」と言われているのかも。

直感的にそう思えてならず、私は今回潔く購入を見送って帰ったのです。

でも、この「どれを買おう?」と民藝品を見つめた先に、自分はどう生活したいか、何が心地よいか、「美しい普段の暮らし」のヒントを見つけた気がします。

と、こう書きながらも、やっぱり民藝品が欲しかった!(笑)

さて、いつ愛媛民藝館に行こうかな〜。

(文・写真:高橋陽子)

【今回の取材先】

「民藝さんぽ -土地の恵みをいただく- 」

日時:2021年7月31日(土)10:00〜16:00

場所:西條藩陣屋跡エリア

お問い合わせ先:

愛媛民藝館(西条市明屋敷238-8)、TEL 0897-56-2110

・開館時間:9:00〜17:00(受付16:30まで)

・休館日:月曜日、祝日の翌日、年末年始、地方祭

・入館料:大人200円、中高生100円、小学生以下50円

・HP:​​https://www.ehimemingeikan.jp/

・Facebook:https://www.facebook.com/ehimemingeikan/

・Instagram:https://instagram.com/ehime_mingeikan?utm_medium=copy_link