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機能を追求した鉄の芸術品「日本刀」の魅力に迫る

2023.03.18

日本での刀の登場は古墳時代。大陸から鉄の加工技術が伝来し、刀剣が作られるようになりました。でも最初は真っすぐな刀。湾曲状に姿が変わたのは平安時代からだそうです。その後、湾曲はしているものの、長さや角度、太さなど時代によって少しずつ変化してきました。

反りが生まれた平安時代、急速に広がった鎌倉時代の日本刀は古刀と呼ばれ、国宝級が多く現存しています。ただ古いからではないそうです。そこのところを古刀に魅了され、その再現に人生を掛けている藤田國宗さんにお話しを伺いました。

▲火床の火力調整をする藤田さん

機能を追求して生まれた美しさ

そもそも日本刀は戦のために生まれ、発展したもの。敵がそこら中にいる戦の最中に「折れない」「刃こぼれしない」のが優秀な日本刀だったそうです。戦中、自分の命を守るものですから当然ですよね。切れ味だけでいうと刺身包丁が優秀ですが、薄いからすぐに欠けちゃうので論外。古い日本刀が現在に残っているのは、大事に取っておいたというのもありますが、頑丈だったということも大きな理由と言えるでしょう。

「粘り強くて切れる奴」、そんな日本刀を研ぐと、独特の模様が浮き出て、キレイな輝きを放つようになります。真の美しさは、美しさを追求して生まれるものではない、まさに「機能美」といったところです。

今の日本刀の楽しみ方は?

武士ではない私たちが、どうやって日本刀の価値を感じるか。さきほどいった模様や輝き具合でどんな切れ味かを想像し、そして、長さや太さなどで作られた時代を伺うことで、日本刀の素晴らしさを理解します。鑑賞するときのポイントはいつくもあるそうですが、大まかには、全体のフォルム、地鉄、刃文などです。

▲刀を抜くときは慎重に
▲人に渡す時は相手に刃を向けない

繰り返して生まれる独特の模様「地鉄」

フォルムと刃文はなんとなく分かるけど、地鉄って何だろう??
じがねと読むそうで、別名は地肌(じはだ)。刃と棟(峰とも言います、“安心せい峰打ちじゃ”の際に使う部位)の間にある「平地」(ひらじ)という部位に現れる模様のことを指します。

日本刀は強度を高めるために、素材を叩いて伸ばし、それを折り重ねて、また叩いて伸ばし、を繰り返して出来上がります。「繰り返し鍛錬」と呼ばれる工程で、幾重にも重なった層状の組織にします(30,000層にもなるとか)。この工程により、化学成分が変化して独特の模様が生まれます。鍛錬の仕方、材料の選定、火の温度など色んな条件で違った模様「地鉄」になるそうです。

▲鍛錬の様子
▲折り重ねているところ
▲たくさんの工程を経て日本刀に

日本刀は地鉄で決まるとも言われていて、鑑定士や詳しい愛好家は地鉄を見ればどの時代のどの地域の刀なのかがわかるそうです。「この地鉄いいですねぇ」って言うと通っぽく見えそうです笑。

古刀の再現に人生を掛ける藤田さん

藤田さんは古刀の魅力に惹かれ28歳で脱サラして刀工の世界に。4年半の修業(他の人よりも早かったそうです‼)の後、故郷の新居浜で33歳の時に「國宗鍛刀場」を開きます。

▲雰囲気のある佇まい
▲参考にしている古刀の資料

さてさて、日本刀にはレシピがあるでしょうか??
幕末以降は記録が残っていますが、それ以前は口伝だったそうです。まってまって、時代時代で刀の形は違うらしい。ということは、そうなんです。古刀のレシピなんて残ってないし、伝わっていないのです。

古刀を再現するために藤田さんは、とことん古刀を観察し、どうすればそれに近づけるのかを常に考えています。通常は玉鋼(たまはがね)という砂鉄からできた素材を仕入れて刀を作ります。ところが藤田さんは、砂鉄と燃料の木炭を仕入れて一から玉鋼を作ります。色んな産地の砂鉄と木炭を試しました。料理の世界で例えると、食材を仕入れて調理するのが普通の人、食材の栽培からやるのが藤田さんといったところでしょうか。

▲玉鋼
▲道具も手作り

レシピが残っていなければ、途中経過の玉鋼の情報も当然ありません。日本刀に完成させてじゃないと再現できたかどうか分からないのです。なので、様々な工程で試行錯誤しています。「昔の人はこういう理由があってこんな加工をしたのだろうと、パズルのように合わせていきます」。

とにかくこだわりにこだわります。現在は鍛錬の際、機械を使っている人が多いのですが、藤田さんは重要は工程はほとんど手槌で行います。「昔は機械なんてなかったでしょう」と藤田さん。そりゃそうですけど、聞けば聞くほどすごいなぁと思わされます。

研究の末、ついに・・・

今年で60歳。30年掛けて理想とする刀に近づいてきました。その証拠に、刀剣鑑定の第一人者である高山武士先生に「きみは重要美術品と同品質以上の刀を作りなさい」と言われたそうです。重要美術品とは、国宝、重要文化財に次ぐ価値や歴史のある文化財に与えられる称号。国を挙げてとても大切にしなきゃいけないといけないものに与えられますが、藤田さんの作る刀はそうした価値ある日本刀と肩を並べるまでになったということでしょう。

鉄を使った焼き物の芸術品

藤田さんにとって日本刀とは「とにかく美しくきれいなもの」だそうです。陶器が土でできた焼き物の芸術品なら、日本刀は鉄でできた焼き物の芸術品。刀作りは一発勝負で、二度と同じものは作れません。鉄の焼き方や練り方、火の強さや鍛錬の力具合などで様々に変わります。その千差万別をどのようにコントロールするのかが刀作りの醍醐味なんだそうです。

▲火床から出てきたばかりの鋼

藤田さんに日本刀を頼むには?

まずは電話などで相談してください。鍛刀場の見学も随時受け付けているので、刀のこと(扱い方、鑑賞の仕方など)を色々と教えてもらった上で注文します。

刀鍛冶が担当する刀身の作成で1ヵ月、切れるように刃を研ぐ工程、鞘を作る工程などを経て、だいたい半年から10ヵ月で完成します。価格は太刀で250~300万円、短刀で100万円くらい。

(取材・撮影/さんマガ編集部)

【取材先】
「國宗鍛刀場」
〒792-0009
愛媛県新居浜市星越町21-44
TEL:0897-47-5681
携帯:090-7789-6661