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紙の可能性を未来に紡ぐ若き手すき和紙職人

2023.03.03

「紙のまち」四国中央市の新宮町に昨年できた手すき和紙工房「多羅富來和紙」(たらふくわし)の大西満王(まお)さんを訪ねてきました。

書を愛し、紙を学び、手すき和紙職人の道に

大西さんは子供の頃から中国の歴史に興味あったことがきっかけで、中学に入り書道を始めました。高校生の時には書道パフォーマンスを行い、毎年四国中央市で開催される書道甲子園に出場した経歴を持ちます。やがて書をしたためる紙にも興味をいだくようになりました。

▲書道パフォーマンス甲子園出場時の作品

紙のことを勉強したいと、愛媛大学社会共創学部産業イノベーション学科紙産業コースに進みました。勉強するうちに伝統的な手すき和紙の存続が危ぶまれていることを知ります。昔は700軒あった手すき和紙工房も残すところ2軒。どちらも後継者がいない。そこで大西さんは、弟子入りを志願したのですが「この仕事は大変だから」と断られてしまいます。

▲書道家としての作品「手」

それでも「伝統を途絶えさせたくない」と諦めず、すでに工房をたたんでいた職人さんに弟子入り。大学を通いながら修行しました。同時に工房を開く準備も行いました。お世話になっている人から15年前まで稼働していた工房のことを教えてもらい、なんとか借りられることに。道具や設備の新調・修繕費のため、クラウドファンディングにも挑戦して、手すき和紙職人としての活動ができるようになりました。

▲新宮の山間部にある工房
▲和紙を作る道具の数々

手すき和紙って

そもそも紙は、植物の繊維をランダムに絡ませ薄く平らにしたもの。ランダムにするために、たっぷりの水の中で溶かすように混ぜます。それを薄くのばし水分だけを抜き取ると紙が出来上がります。平らにして抜き取る工程を「漉(す)く」というのです。

和紙は、楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)といった日本に生息する植物が原料で作られた日本古来の紙のこと。ちなみに、本やノート、コピー用紙などは洋紙といわれ、主に海外の色々な木からできたパルプを原料としています。和紙の原料は、パルプに比べて繊維が長く、丈夫です。でも作るのは大変なのだそうです。

で、手すき和紙というのは、伝統的な原料を使って、手で漉く紙のことなのです。

手すき和紙ができるまで

①原料選び
まずはどんな紙を作りたいのかをイメージして原料の選定と配合を決めます。
②原料の下処理
和紙の原料は硬いものが多いです。それを柔らかくして繊維まで細かくほぐすために、いろいろな手順があります。外皮を剝がしたり、水に晒したり、アルカリ水にいれて煮熱したり、漂白したり、ゴミをとったり・・・。大変です。
③叩解(こうかい)
きれいに柔らかくした原料をたたいたりしてほぐして細かい繊維にします。
④漉き
いよいよ紙の形にしていきます。漉き舟(すきふね)というお風呂のような容器の中に、原料と水、ネリ(原料が水の中で沈まないようにする粘りのある液体)を入れます。窓枠のような簀桁(すけた)に、すだれのような漉簀(すきす)を挟み、漉き舟の中の液体をすくっていきます。そうすると漉簀の隙間から水が落ちて、繊維だけが残るというわけです。これを何回か繰り返して紙にしていきます。
⑤圧搾・乾燥
漉き作業でできた紙はまだ水分が残っていて、びちゃびちゃ。これを圧搾して水分を抜き、乾燥させて出来上がりです。
⑥仕上げ
出来上がった紙を規定の寸法に裁断すれば完成です。

▲原料を干しています
▲叩解した後
▲均一に漉くのが難しい
▲圧搾するために紙を重ねています

大西さんの作る和紙

書道用の半紙、大判の画仙紙を製造しています。和紙は洋紙に比べ表面に凹凸があり独特の風合いをしています。そして、墨が滲みやすく書にした際も作品に奥行きがでます。

1日にできる紙は300枚。半紙はその紙を8等分します。作った紙の15%は異物が混ざっていたり、穴が空いていたりして商品になりません。なので、商品にできるのは半紙で2040枚しかできない貴重なものです。

大西さんは伝統を守るだけに留まりません。今では作れなくなった古来の和紙作りにも挑戦。そして、書く以外の用途でも活用できる和紙づくりにもチャレンジしたいと語っていました。

▲温かみのある風合い

(取材・撮影/さんマガ編集部)

【取材先】
「多羅富來和紙」
〒799-0301
愛媛県四国中央市新宮町馬立1517
TEL:090-8696-3711
https://tarafuku-washi.com/