MAGAZINEプチさんマガ

町中がまるでリアル・キッザニア!
四国中央市「子どもの夢叶えますプロジェクト」がつなぐ未来

2023.03.20

とある一室にずらりと並ぶ楽器。

馴染みのあるものもあれば、楽器とは思えない不思議な造形をしたものも。

「これなんですか?」

女の子が尋ねると、

「これはね…」

先生たちがそれを手に取り、軽やかに音を鳴らしはじめました。

あのアートユニット「明和電気」が開発した、「オタマトーン」と呼ばれる電子楽器。

棒の部分をなでると、高音から低音までびよーんと伸びるような音が響きます。鳴き声みたい。

「他のもどんどん触って、鳴らしてみていいよ」

先生に促されて、女の子もいろんな楽器にそっと手を伸ばします。

「マニアックな楽器を弾きたい」という夢

この日取材に伺ったのは、「子どもの夢叶えますプロジェクト」さんの活動現場。

「子どもの夢叶えますプロジェクト」は、2021年に開催された四国中央市主催のまちづくりワークショップをきっかけに誕生した市民グループです。その名の通り、子どもたちのやってみたいこと、抱いている夢を実現すべく、協力者を募って夢を形にする活動を行っています。

この日叶ったのは、「マニアック、珍しい楽器を弾きたい」と書いてくれた小学校6年生の女の子の夢。協力してくれたのは、子供から高齢者・障がいを持つ人たちまで音楽療法を通じて幅広くサポートしているNPO法人カノンのみなさんです。

カノンのみなさんが用意してくれた楽器は、20種類以上あったでしょうか。そのどれも珍しくて、私も興味津々です。

「学校で見たことある!」合奏では効果音としてよく使われるギロや、

ポロンポロンとかわいい音が弾むアフリカの楽器「カリンバ」。

叩き方によって音が変わる「カホン」。

このほかにもあまり馴染みのない珍しい楽器がたくさん並び、触れたり、弾いてみたり、合奏してみたり(!)。不思議な楽器と音に囲まれて、部屋のなかはいつの間にか笑顔と笑い声に包まれました。

▲女の子が書いてくれた夢のプリント。学校で世界の楽器について学んで興味を持ったのがこの夢のきっかけだったそう
▲マリンバの叩き方を教えてもらったあとは、先生たちと一緒に合奏しました。すごい!

子どもたちの夢が叶う地域へ

「夢が叶うような地域になってほしいという気持ちで活動しています」と話すのは、この日同行してくださったメンバーの一人、坂下陽子さん。グラフィックデザイナーという本業の傍ら、活動に参加しています。

「力になってくれそうな方に声をかけると、ほとんどの方が快く協力してくださいます。夢によっては、協力者探しに難航することもありますが、でもそれが地域の”発掘作業”にもなっていますね」

現在、活動の中心メンバーは、大人4名、高校生2名の全6名。職業も世代も多様なそれぞれが、本業の合間をぬって協力者のリサーチや日程調整に当たっています。

「夢が叶う日はスタッフとしても達成感があります。子どもたちの夢を通じて、保護者の方もスタッフにとっても、”こんなことができるんだ”という発見もすごくあって。時間はかかるけれど、活動を通して地域の良さを知ったり、自分も何かしたいと思うきっかけを作れたらと思っています」。

▲この日の仕上げは、トーンチャイムで「エーデルワイス」を合奏!私も参加させていただき、心地よい音色に浸りました。
▲カノンのみなさんは、それぞれがピアノの先生としても活躍。「私たちも、いろんな楽器に触れて、音楽の楽しさを知ってもらう活動をしているので、そのきっかけを作ってもらえて嬉しいです」。

地域が持つ「応援の力」を還元したい

子どもたちが何か「やってみたい」と思った時に、応援してくれる大人がいる。そうだと知っているだけでも、なんと心強いことだろうと感じます。

同グループの代表・村上智子さんがこの活動を思いついたのも、この地域の「応援の力」に気づいたことがきっかけだったといいます。

「不登校だった娘は、四国中央市の伝統産業である「水引」に出会って、水引アクセサリーを作ってマルシェで販売したり、ワークショップで人に結び方を教えたりするようになりました。

その時、地域の人たちに応援していただき、ものすごく支えてもらったんです。この町にはそういう温かさがある。地域がもともと持っている応援の力を、活動を通して多くの子どもたちに還元していきたいと思っています」

「子どもの夢を叶える」という活動が子どもたちに与えているものがあるとしたら、それはモノでもお金でもなく「経験」そのもの。

村上さんたちが目指すのは、子どもたちの夢を通して、人と人、人と社会、そして子どもたちを想う気持ちをつないでいくことです。

「四国中央市が、キッザニアみたいな町になったらいいな」

村上さんの言葉に、この町の未来が浮かび上がってくるような気がしました。

▲ミーティングの様子。市内小中学校から集められた子どもたちの夢は、約600通にものぼります。(提供:子どもの夢叶えますプロジェクト)

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「いろんな楽器に触れられて、いい機会をもらった。すごく楽しかったです」。

女の子の言葉に、親御さんもプロジェクトを遂行したみんなも笑顔に包まれ、夢の実現は無事に終了。

この数時間の経験が、彼女のなかでどんな芽になって育っていくのかな。そう考えるとワクワクします。

子どもの夢が叶う。

夢みたいな言葉だと思っていたけれど、今は、なんてリアルな響きだろうと感じます。とくにこの町においては!

▲夢が叶う瞬間に立ち合わせていただき、ありがとうございました!

<取材協力>

子どもの夢叶えますプロジェクト
note: https://note.com/super_iris846
instagram: @kodomonoyumekanaemas

NPO法人カノン
https://mckanon.jimdofree.com/

(取材・撮影 高田ともみ)