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地域発のアートを育もう!
「にいはま子どもアートフェス2022」
「こども×アート」。新居浜市に、また一つ新しいイベントが誕生しようとしています。
企画したのは、地域のエンタメを引っ張り続けるライブハウス「新居浜ジャンドール」さん。
ライブハウスが子どもアート? ちょっと意外な組み合わせで、地域に新しい風を吹かせようと試みる、その想いを伺いました。
「にいはま子どもアートフェス」って?
新居浜市地方創生推進課が2017年から取り組んでいるシティブランド戦略。
そのひとつに、市民の主体的な活動を後押しするための委託事業「Hello!NEW新居浜チャレンジ推進事業」があります。
公開プロポーザルを経て今年度採択された一つが、この「にいはま子どもアートフェス2022」。
コロナが落ち着かず3月6日への延期を余儀なくされていますが、マジックショーの体験や篠笛ステージ、舞台美術の制作から、新居浜の昔話を題材にしたオリジナル紙芝居まで……と、その内容はとにかく多彩。
地域の子どもたちを対象に行われる一風変わった体験型のアートプログラムには、子育て層はじめ地域からも大きな期待が寄せられています。
しかも、企画運営を担うのはライブハウス。意外な組み合わせに少し驚きながらも、取材を経て、その意外性にこそ大きな意味があると感じました。
「ライブハウス×子ども」で“やってみたい”に火を付ける
「アートや文化にふれて、おもしろいと思ったり、やってみたいと思ったりしてくれる“観客”を、育てたいんです」
話を伺ったのは、演出や脚本、イベンターほか、朗読家としても活躍する「あなたとアート」主宰、梅屋サムさん。新居浜ジャンドールと業務提携という形でタッグを組み、
・新居浜在住のアーティスト、新居浜にある題材にこだわり
・アートを通じて、新居浜への愛着を持つきっかけ
となるよう、「にいはま子どもアートフェス2022」の企画を立ち上げました。
実は、サムさんご自身も新居浜への移住者。幼少期から、広島、島根、東京などいろいろな地域で暮らしてきた経験から、「地方都市と都会では、“情操教育”に差がある」ことを実感したと話します。
「都会でも田舎でも、何かやってみたいと思っている人は一定数いると思うんです。でも、実際にやってみる人は地方には少ない。それって、機会がないわけじゃなくて、“自分にもできる”と思えるチャンスがなかっただけなんじゃないかと思うんです」
コロナが広がり始めた昨年、文化施設やライブハウスが問題視され、多くの施設が休館や閉業に追い込まれました。県外からのアーティスト誘致はかなわず、地域の文化芸術活動は完全にストップ。それは、サムさんにとっても危機感を募らせるきっかけとなりました。
「地域で活躍しているアーティストたちはたくさんいる。彼らとつながり、彼らが活躍できる場を育てないと、また同じようなことになる。アーティストたちが連携して、“自分にも何かできるかも”という時間を子どもたちに提供したい。いろんな角度から楽しんで、新居浜をもっともっと好きになってもらいたいです。そのためには、自分自身がもっとたくさんの新居浜に出会っていきたい」(サムさん)
地域密着にこだわって本物のエンタメを届けたい
創業から25年。地域の文化活動を支えてきた新居浜ジャンドールとしても、これまでコロナをきっかけに、自主事業を立ち上げながら、地域密着でエンターテインメントを届けるための模索が続いています。
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代表の伊藤俊一さんは、「いろんなことやらないと生き残っていけない(笑)」と笑いますが、実際のところ新居浜ジャンドールは、音楽や文化を通じ、一貫して地域の課題に取り組んできた稀有なライブハウスです。
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また、新居浜ジャンドールが特筆すべきなのは、単なるハコとしての機能にとどまらないこと。数々の地域の課題に向き合うことで培われてきた技術、設備は、舞台照明、ステージ運営、音響、受付機能など、イベントの総合プロデュースにまで至ります。
照明や音響機材などはプロ仕様の設備とクオリティ。「地方のライブハウスでここまで設備が整っているところは珍しい」とサムさんは絶賛します。
「子どもたちが来ると、やっぱりイベントにも活気が出る。できるだけ子どもたちの発表の場を作って、本物の音やステージに触れてもらいたいなとは思いますね。そのためにも、収益が生まれるような仕組みの中で場づくりしていくのがこれからの課題」
伊藤さんがそう話す通り、今回も単発のイベントで終わるのではなく、継続していくためにどうするかを模索。その一つの形として、イベントで行われるそれぞれのプログラムを切り離し、地域の学校や幼稚園に回る取り組みもスタート予定なのだそうです。
観客、演者、ステージ。アートはみんなで育てていくもの
コロナで見通しが立ちにくい昨今、文化活動には余計にブレーキがかかりがち。一方で、皆さんの話を聞いていると、こんなことでもなければ、「アート活動するなら都会」「田舎では何もできない」という考えから脱却できなかったかもしれない、と思います。
実は、不定期で作文教室をしている私も、このイベントで「言葉でアート」というプログラムを担当する一人です。
「いいこと書かなきゃ」「うまく書かけない」。作文は苦手でも、時には原稿用紙なんか無視して、リズムや音から、言葉を楽しんでもいいんじゃない? そんな想いでやっていた作文教室がこのイベントから声をかけてもらったとき、「そうか、私がやっているのも“アート”の一種なのかもしれない」と感じました。
私自身も実感していることですが、「なんか楽しそう!」がきっかけとなって、「こんな人たちがいるんだ」「自分にもできそう」と思ってくれる子どもたちが増えたら、地域は大きく変わっていくに違いありません。
「結局、アートは、演じる人だけでも、見る人だけでも、ステージがあるだけでも成り立たない。三位一体となって初めて感動が生まれるし、収益にもつながる。だからこそ、今から、いろんな方向から“アート”を育てていきたい」(サムさん)
その鍵を握るのは、地域の子どもたち。そして、文化芸術への深い造詣と想いを形にしようとするサムさんのこの言葉に、深くうなずくしかありません。
「ただ楽しいで終わるのがアートではない。これは、なんかやってみたいって思う子どもたちのための、居場所づくりなんです」
(取材・撮影/高田ともみ 写真提供/新居浜ジャンドール)
<今回の取材先>
「にいはま子どもアートフェス2022」(Hello!NEW新居浜チャレンジ推進事業)
主催:新居浜ジャンドール(共催:ワクリエ新居浜 あなたとアート)
日時:3月6日(日)(10:00〜15:30)
場所:ワクリエ新居浜
お問い合わせ:新居浜ジャンドール 0897-32-3567
◆イベントの開催・延期について
※本イベントは、感染対策を徹底した上で開催予定です。状況に応じて、内容や開催要領などが直前に変更となる可能性があります。最新情報は、SNSなどでご確認ください。
新居浜ジャンドール